「何もしないをしていた」

昔お付き合いしていた方と、週末何してた?的な会話をしていたときに言われた言葉です。出典はくまのプーさんらしいですが。
大学生頃の私には、あまり好きになれない言葉でした。今よりも何もできなくて、だからこそ何でもできると思っていて、今よりも時間を無駄にすることが嫌いでした。何か「成果」を出さないと一日を終えたくありませんでした(これは割と今でもそう)。
ただ、あまりにも当時の自分からは出て来ようがない価値観だったので、今でも忘れられないくらい強烈に心に突き刺さった言葉でもあります。

目に見える「成果」にこだわってしまうのはもう性分で変えられないんだと思います。今でもリードタイムの長い成果は苦手です。大学院時代や新卒で入った会社では、そのせいで辛さを感じていた気もします。
ただ、人間ずっと情熱だけで動けるわけではないというのも、歳を重ねると身に染みて感じます。
グラデーションがあってもいい。「何もしないをしていた」日があってもいい。
誰かの成功譚で気合いを入れ直す日もあれば、この言葉に救われながら過ごす日もあります。

普段あまり自分の恋話をしないので、この程度で気恥ずかしさを感じます。
会社の後輩に「未だに童貞みたいな思考に戻れるのは素晴らしいことですよね」と言われたことがあります。

 

平素より大変お世話になっております。

 

【最近見た映画の話】part3
カメラを止めるな!
始めにとあるエピソードから書いておきたいのです。
10年ほど前にCDショップで「ill hiss clover」というバンドをたまたま知りました。
試聴機に入っていた1stミニアルバムを何とはなしに聴いてみたところ、他では聴いたことのないシャープなテクノ調のサウンドに画期的なボーカルエフェクト、キャッチーなメロディーにものの数秒で圧倒されました。
人生最大級の衝撃を受け、即決で購入した後、あまりの衝撃に感想をツイートしたところ、そのバンドの曲作りも担当していたギターボーカルの方から感謝のリプライをいただき、相互フォローにもなっていただきました。
結局そのバンドは3枚のミニアルバムをリリースしたものの、インディーズから日の目を見ることはなく活動休止となってしまいましたが、今でも私の中の「一耳惚れ」ランキングは1位です。
(2位andymori、3位THE PINBALLSかな)


そしてこの映画の音楽を担当された鈴木伸宏さんという方は、ill hiss cloverのギターボーカルその人なのです。


このことは、この映画が話題になった時点で既に知っていたのですが、なんとなく映画を見るタイミングがないなと思っており……
最近後輩がNetflixのアカウントを一つ分けてくれたということで、Prime Videoのウォッチリストでいま有料になっている映画をネトフリで観れないものかねと検索していたところ、『カメラを止めるな!』がヒットしたので、これ幸いということで視聴に至りました。


本編より長くなりそうな導入を経て書き殴る感想ですが、まずは「やられた!」という一言ですね。
今時この映画のネタバレに配慮することもないかもしれないですが、見てる途中までは思いつかない、ただ見終わってみるとこれ以外には考えられない構造になっているカタルシス
序盤から違和感を振りまいているので、慣れた人はもしかしたら勘付くのかもしれませんが、「One Cut of the Dead」とかのワードだけは頭に入っていた分、中盤以降の展開は思いもよらないものになりました。これぞ叙述トリックと言ったところでしょうか。

私が触れる機会が多かった創作物は小説という話は何度か書いたのですが、叙述トリックものは記憶にないくらい読んでこなかったんですよね。『イニシエーションラブ』ぐらいか。だから定義も良く知らんのですけど実は。
あとミステリ小説でよくあるやつ?というイメージもありますが、ミステリはあまり読まないのですよ。そしてミステリの謎解きと叙述トリックって何が違うんだろうな。
電撃文庫の「トリックスターズ」というラノベが、意識的な叙述トリックモノだった気がする。
何が言いたいかというと私にとっては珍しい鑑賞体験だったということです。

おまけにこの映画では、種明かしパートに入ってからも色々と伏線を張っているので、終盤は叙述トリックと本筋の伏線を2本立てで回収しているという、2倍の視聴体験を味わえてしまったわけですね。ラストシーンまで良くできていたなと。
短い時間でも濃密な描写ができる点と、ストーリーの直接の流れに関係ないものも観衆の頭に残しておけるという点が、映画だなぁ、映像作品だなぁと感心しました。

今まで私は映画やドラマに特段の興味がなかったのですが、今年はしみじみと「映像作品ってすげぇんだな」という想いにとらわれつつあります。
有名な「connecting the dots」のスピーチではないですが、進むべき方角には邁進しつつ、時々寄り道もしながら、自分の変化も楽しみながら生きていくっていうのが、私なりのオトナの生き方なんですかね。
自分のことは全肯定でいいんだと思います。変わってもいい。変わらなくてもいい。
ただ、個人的には変われるかもしれない機会は折を見て設けるんだろうなって感じです。

今日は「映画を見ていた」日でした。
お疲れ様でした。お先に失礼します。

<本日の一曲>
MATSURI/ill hiss clover

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